私は、生家の裏に田んぼが広がる佐賀市の郊外に生まれ育ちました。
幼い頃の記憶といえば、その田んぼで凧揚げをしたことと、稲わらの野焼きの匂い、そして野焼きで霞む夕景です。
大学時代に故郷を離れて得た結論は、自分は根が田舎者であるということでした。
都会に出たことで、それまで何の変哲もない場所だと思っていた地元の有難みを見つめ直す機会を得ました。
税理士事務所の開業に当たり、都会に事務所を構えた方が集客面で何かと有利ではあったのですが、慣れ親しんだ地元を選びました。
知り合いからの紹介でお客様が増えてくるにつれ、特に地元佐賀の零細企業や個人事業主が抱える課題に対応し貢献したいとの思いが芽生え、現在に至っております。
税理士事務所の集客は、知り合いや既存顧客からのご紹介によるパターンが多いため、自然と地元のお客様が増えていきます。
従って、地方の小規模な税理士事務所であれば、あえて「地元専門!」と謳わずとも、お客様の大半が地元の方だったりします。
クラウド会計の普及で、税理士も地域にこだわらず全国のお客様を対象にできる時代となりました。
また、チャット・クラウドツール・web会議ツールでのやりとりで、直接面談することなく会計業務を行うこともできます。
そんなグローバルな時代ではあるのですが、お客様の側から、あるいは税理士事務所の側からもお互いに、距離的な近さに対する根強いニーズがあります。
それはなぜでしょうか。
税務調査の際には、税理士の同席が認められています。
その対応ですぐに来てくれる距離の税理士事務所であれば安心感があるようです。
普段のお客様との打合せを通じて、経理資料の内容、保管場所、保管方法や社長の性格、そして経理上の問題点を熟知している専門家が同席した方が、調査対応もスムーズに進むのではないかと思っています。
この点で、オンライン面談では弱いように感じると個人的には思っています。
税務に関する相談は複雑なことが多く、対面でご相談されたいと考える方もおられます。
単に申告業務だけを税理士に依頼されるのであれば、オンライン面談でも構わないと思います。
ただ、込み入ったご相談において、オンラインだとテーブルに資料を広げての説明ができないため、物事が伝わりにくいという側面があります。
経営者は孤独な存在です。
不安を抱えておられる多くの経営者の方々と接してきました。
税理士に伴走者としての役割を期待しておられる方の中には、距離的に近いと信頼できるとお考えの方もいらっしゃるようです。
他県の税理士事務所(他県とはいえ、車でせいぜい30~50分程度の距離)から堤税理士事務所へ移られたお客様もいらっしゃいます。
"税理士さんってあちこち飛び回る仕事ですか"
と聞かれることがあります。
講演が得意な税理士はともかく、私のようにこぢんまりと商売をしている税理士はそうでもありません。
ご契約いただいたお客様宅を定期的に訪問し、あるいは事務所へ来訪いただき、会計入力に必要な資料を回収したり会計チェックをするのが日常の業務です。
ある意味でルート営業に似ていると思っています。
従って、お客様が近場にいらっしゃった方が、お互いに効率的だったりします。
また、ルート営業に似て、お客様との日頃のコミュニケーションが重要となります。
コミュニケーションを通じて、社長の人となりやその会社の商売の流れを知ると、会計処理や申告書の精度が上がります。
また、その会社の目指している方向性を知ると、お客様から何かご相談を頂いた際の対応の精度が上がるように思います。
会計帳簿を作成し、あるいはその帳簿の内容をチェックするために、お客様から会計資料を回収します。
会計資料の代表例はレシートや通帳のコピーです。
回収方法は様々です。
直接受け取る方法や郵送、最近であれば、スキャンしてクラウドシステムで共有していただいたり、スマホで撮影していただいて会計ソフトに紐づけさせる方法もあります。
ただ、スキャンやスマホ撮影は意外と時間がかかるので、これを余分な手間と感じるお客様もおられます。
従って、会計資料は直接手渡しした方が、一番シンプルで何も考えなくてよいかもしれません。
当然のことながら、手渡しの場合は税理士事務所が近めであれば効率的です。
現時点では、領収書などのやりとりは、まだまだ紙取引が中心の世界です。
この紙ベースの会計資料をいかに効率的に回収するかという問題は、実は税理士事務所にとって永遠の課題で、このテーマだけで税理士向けセミナーが開催されるほどです。
将来的にはこれらの取引もデータ中心となることでしょう。
そうなると、税理士事務所のあり方も変わってくるかもしれません。